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NODA MAP「フェイクスピア」を観たよ

【頭を上げろ!32分16秒の記録】

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「フェイクスピア」というタイトル、ポスターもモノクロに印象的なショッキングピンクのポップな印象、ということでシェイクスピア作品をベースにしたコメディなのかな?と思っていたが、野田秀樹はそんなに甘くなかった。
わたしが気付いたのは「どーんと行こうや」という台詞でだった。
それまでもたびたび「頭を下げろ!」と繰り返されていたのが気になっていて、この台詞をどう回収するんだろう?と思っていた。
わたしはリアルタイムで事故を知っている世代ではない。音声もリアルタイムの報道で聞いたわけではない。おそらく周年での特集番組とか、そういうもので断片的に聞いただけだと思う。それでも一部分を聞いただけでこの事故の音声と分かる。
終盤、野田秀樹が「コトバの一群」と表したあの音声。それを舞台に乗せた野田秀樹。それを再現した高橋一生をはじめとする役者たち。
「凄まじいものを観た」と思った。幕開きの木が倒れる描写から、すべて、すべてがこのシーンのためだった。なんてものを創るんだ野田秀樹

役者に関しても記しておく。
やっと舞台で観ることができた高橋一生。映像で見るよりも圧倒的に説得力を感じる存在感だった。
特に橋爪功シェイクスピアの台詞で(時には女性役で)やり取りする様は舌を巻いた。劇中劇、とも呼べないようなものなのにすっかりその役にしか見えなくなるのだ、ふたりとも。
シェイクスピアのオールメールシリーズってもう終わったんでしたっけ?男性役でも女性役でもどちらでも観てみたくなった。
そして、機内のシーンは高橋一生あってこそのシーンだった。ただの「mono」から「機長」になるまでを表現なしえたのは圧巻。
とても上手い役者だと思う。それでも更にもっと上手くなる役者だとも思う。これから40代50代60代と表現するものを観続けたい。
あっちゃんこと前田敦子も面白かった。伝説のイタコ、星の王子様、白い鳥。特に印象的だったのは星の王子様。
文学作品としての星の王子様の導入部分がどうだったかを思い出せば、なぜ星の王子様だったのかも分かる。
軽やかでチャーミングで、それでいて場と「馴染まない」。野田秀樹演じるフェイクスピアとともに「フェイク」の象徴だったとも思う。
そのフェイクスピアとのコトバの応酬が演目の軸となる。ものすごく大変な立ち位置だったと思う。
そして何と言っても貫禄は橋爪功白石加代子だろう。
「憑依の女優」白石加代子が「憑依させられない」見習いを五十年も続けているイタコ、という役柄も面白かったが、その役を憑依させているのはとんでもなかった。映像でも舞台でも、いつ観ても「白石加代子」なのにいつ観ても「白石加代子」ではない。
橋爪功もいつも観るたびになんて俳優だと驚くのだが、今作は特に幼い子どもを演じるとそのようにしか見えなくなることにぞっとした。
高橋一生が父親、橋爪功が息子だなんて後にも先にも有り得ない設定だろう。本当に凄まじいものを観た。
この貫禄の役者ふたりは特に、御年八十に届こうかというのに他のどの若い役者よりも言葉が聴こえるところがとんでもない。発声も発語もとても美しい。ぜひ限界まで舞台に立ち続けてほしいと思う役者たちだ。
もっともっとおふたりの芝居を観ていたい。

御巣鷹山の事故からまだ36年しか経っておらず、ご遺族の方々もご存命の方が多いこともあり内容を語るのが難しい。
「生まれる前の事故」として語るには生々しい資料とご遺族の悲しみを映像で見過ぎている……。
それでも野田秀樹が、今、この作品を上演したいと思ったのには何か意味があるのだと思う。まだうまく飲み込めないけれど。


2021.07.24. 18時