【定まらない視点 役者の力量に頼り切った公演】
キューブ25周年記念公演ということで、気合い入ったキャスティングだな〜というのが第一印象。主演は飛ぶ鳥を落とす勢いの出世頭・松下洸平。
白洲迅くんに木下晴香ちゃん、上山竜治くんは見たことなかったけどいつも高評価な役者さんたちだし、何よりえりたんねね姫ゆきちゃんがいて、山内圭哉さんや山西惇さんまで！……といろんな条件が揃ってわくわくしていたのですが。
「キャストは良かったけど脚本と演出が……」すぎた。全員が役不足すぎて勿体ない……。
そもそも演出の河原さんが雑誌のインタビューで「洸平くんはエモい(超絶要約)」って言ってたところから「プロがエモいって言葉に逃げるんじゃねぇ〜〜〜！！！！！」って不信感を抱いてしまっていたのも良くなかった。
（長くなるので割愛しますがそもそもエモいという言葉は2000〜2010年代前半のロックキッズのものだったのに……）（この話はまたいつか）
時間軸が行ったり来たりするのはまぁ……とは思うんですが、視点がころころ変わるのが気が散ってしょうがなかった。
グランドシアターの客席に座っている観客の視点と、物語を俯瞰で観る神の視点。わたしは今どういう視点でこの芝居を見れば良いのか、と一旦思考を挟まないといけないのが回数が積み重なっていらいらしてしまった。
「今ここ拍手していいとこ？あかんとこ？」って躊躇いが生まれたのも嫌だったなぁ。
あと一幕の服部・マヌエラの粗雑な振る舞いが、本当はできる子な洸平とねね姫を下手に見せていてものすごく歯痒かった……特に服部は大仰な振る舞いがこの舞台全体をリアルに観せたいのかファンタジックに観せたいのか分からなくさせていて、いやいや洸平使っといてこの芝居はないでしょ！と悲しくなってしまった。マチネ観劇中にソワレのチケット流して帰ろうかなと考えるくらいには合わなかった（結局観ました）。
ラ・クンパルシータでふたりだけで会話をしてると思ったらいつの間にか店の中にいる人全員がふたりに注目してるのもおかしいでしょ……店内騒がしいはずなのにそんなに聞こえる！？六畳しかないんか！？
服部良一というよりは「李香蘭とリュバの物語（おまけで服部と黎の物語だよ！）」という印象。服部が主人公なのに掘り下げがなかったのが残念だったなぁ。服部だけの視点で物事が進んでいるところが少なかった。
後から気付いたけど、服部が自分の心情を歌うソロ曲が一曲もなかったんですよね。逆にソロではないけど香蘭とリュバはデュエットがあったのでそのような印象になったのだと思う。
文句ばっかり言っていてもしょうがないので。
現役時代のえりたんのお衣装でスーツ姿がいちばん好きだった人ことわたし、登場した瞬間当時のときめきを思い出して気持ちがふわふわしてしまった笑。二幕、軍服姿で登場したときは「スゥ――――――ッッッ………………」って大きく息を吸ってしまったｗ
コンサートシーンの歌唱もさすがだったし、お芝居は安定しているし登場シーンは安心して観られました。えりたんのこの安定感、信頼しかない……。
ねね姫、たくさんお衣装があったけど、豪華になればなるほど本人が華やかになるのはすごかったな。スパニッシュのダンスシーンは美しかった〜！階段、あれだけ幅があれば踊りやすかったろうなと思った笑。
総合さんの異名を持つゆきちゃんは序盤に娼婦として歌い、リュバとして芝居し香蘭と歌い、コンサートシーンでは女優として歌う……と大活躍。歌でお芝居ができるゆきちゃんだからこそそれぞれ違うお歌ですごかった。香蘭とのデュエットがいちばん好きだったな。
お芝居でいちばん好きだったのは幕前での服部と長谷部のシーン。長谷部が「黎は共産党員だな？そうだな？」と問うてからの絞り出すような服部の「はい」。このシーンは洸平の真骨頂だな、このシーンを観るためだけに来たのかも、と思えるくらいに素晴らしかった。洸平も追い詰められてからの芝居が本領発揮ですね。
洸平のことを常々「ネアカの月属性」と思っているんですけど、服部が太陽属性だったからこそ合わなかったのかなぁと思った。黎のほうが合う気がする。
音楽がテーマなので生バンドなのも楽しかったなぁ。ジャズ大好きなので、久し振りの生演奏のジャズは嬉しかったです。二胡の響きも美しかった。ピアフでもそうでしたが、劇中の演奏シーンで舞台上に乗せるのは音楽物のお芝居では楽しみなことのひとつ。
演出そのものはとてもぼんやりとしていて、いいところがない代わりに決定的にだめなところもない……といった感じ。
一階席前方と二階席後方で観劇したのですが、これ役者の顔見えないとキッツいな〜（つまらないという意味で）って感じで、二階席後方の回はほぼ全編オペラグラスを覗いていた。
キャストのお芝居と歌を観るために行って良かったし、二回観たのも後悔はないけど、違うキャストで再演します！って言われてももう行かないかな、という感じでした。
2022.04.09. 12時 / 17時
