世界が終わる日が休日ならいいな

好きなものを好きなときに好きなだけ

舞台「オデッサ」を観たよ

【真実はどこに 実力者三人の会話バトル】


※ネタバレがあります
早くも年間ベスト決定だよ……と言ってしまいたくなるほどの完成度。面白かった~!
当て書きオリジナル作品の醍醐味とはこのこと。三人をよく知る三谷幸喜だからこその脚本・演出でもあるし、その期待に十二分に応えた三人の実力を改めて見せつけられた気がします。
何より、オリジナル作品であるからこそ先が見えない面白さがありました。
日本語しか話せない殺人事件の重要参考人、それを取り調べる英語しか話せない警部、そして通訳する男。この設定だけならまぁあるかもなというところなんですが(トリオコントでありそう) 一筋縄ではいかないのが三谷幸喜
なぜ取り調べは警察署で行われないのか?なぜこの男は目立った観光スポットがないオデッサに来たのか?なぜ通訳が本業ではない日本人が通訳をすることになったのか?
台詞の端々にあらゆる理由が散りばめられていて、それがひとつずつ意味を持っていく様子がとても滑らか。使われすぎてあまりこの言葉を使いたくないのですが、伏線が伏線とわからず用意されている脚本はお見事。話の軸が殺人事件ということもあり、ミステリの様相を呈しているのもコメディの中に効いたスパイスといった感じ。
客席がどっかんどっかん沸いていて、わたし自身も劇場でこんなに笑ったのいつぶり……!?となるくらいに面白かった!

前情報から大変そうなことが察せられたかっきー、本当に大変そうだった笑。
かっきーとエマちゃんふたりのシーンでは「英語を話している」体で日本語で喋っているのでエマちゃんも日本語の台詞があるのはあるのだけれど、「日本語と英語を同じシーンで話す」のはかっきーひとり。頭こんがらがりそう……。
こんな無理難題を与えられ、雨の中捨てられた仔犬みたい、なんて表現に三谷幸喜のミューズなんだな……と改めて思いました笑。
けれどそれを難なくこなしているように見せ、なおかついつも通り芝居は安定していて、それがあまりに自然なので、観ている最中というよりかは終わったあとに「いや、すごかったな!?」と気付く感じ。
渡米して4年、あまり深く考えていないながらも漠然と「このままでいいのかな」と感じている若者としてそこに「在る」のがさすが。児島に捕まってほしくないのも優しい人なんだなと感じます。オデッサのことを表した詩も美しいし……。
それが柿澤勇人本人にも見えてくる。でもそこにいるのはかっきーじゃなくスティーブ日高で……と軽く混乱するくらいに役とかっきーが一体化している感覚だった。
かっきーのジキハイやSoRのただひとつの輝きのようなお芝居も、「どこにでもいそうな人だな」という感じるお芝居も大好きです。

凛とした顔立ちで、取り調べをひとりで任されているのでずいぶんやり手……と思いきや遺失物係のカチンスキー警部。後半になるにつれそのポンコツ……おっちょこちょいっぷりが明らかになっていく愛くるしい人物でした。NY市警からオデッサ警察に左遷された理由がポンコツすぎて笑。
シングルマザーで息子のことを大事に育てていて、自身のルーツにほんの少しコンプレックスを抱いている。目の前のことに必死に向き合ってはいるけれど、ままならないことも多い。でもきっとルーツに誇りも持っていて、だからこそ苦しいのかも。とエマちゃんのお芝居を見て思いました。
取り調べのときと息子からの電話とで声色が違うのがとてもよかったな〜ランチじゃなくてお弁当を作るのも愛情だよね。
小柄な身体から発散されるエネルギーがとんでもなかった。ふたりと並ぶととても小さいのにそれを感じさせないくらいのエネルギー。エマちゃんを舞台で観るのは久し振りでしたが、そうそう、そうだった!と思い出せたのが嬉しかったな。

すべての謎を握る男!というと、わたしが迫田さんの名前を認識した「天国と地獄」を思い出します。それまでは顔は知っていたけど失礼ながら名前を覚えていなかった。
最初から最後まで疑っていなかったのに、正体がわかった瞬間の驚きよ……!「嘘をつくときには真実を混ぜる」のセオリーもきちんと取り入れられていて、二回目を観たときにちょっとした仕草や行動が「あ、これ!」と気付くのが面白かった!連続殺人事件の資料をめくっていたり、SOVAのときに本当の現場の状況と矛盾のない説明ができたのも英語を理解していたから!……と気付いたときのアハ体験。
英語を話し始めてからの印象ががらりと変わるのも、「バイリンガルの人は言語ごとに違う性格になる」を思い出して面白かったです。いや児島の演技でしょうけど……笑。
ティーブと警部が真相に辿り着いたのは児島のうっかりが原因なので、登場人物みんなおっちょこちょいやな!というのも含めて楽しかったな。

脚本そのものが単純明快で、二回目を観たときの面白さというのも確実に存在はするんですけど、一回目だけでも大満足な内容でした。何度も見返せる映像作品とは違い、一度きりの体験になりがちな舞台は正直こうあってほしいです。
難しい、明確ではない脚本をやるなというわけではないんですが、「これ複数回観劇すること前提の作劇だよね?」って感じた瞬間に一気に白けてしまう。
それから、三谷作品は「観ている瞬間は面白くて楽しいけれど、後で思い返したときにハラスメント等疑問に思うことがある」ことが多かったんですけど、今回はそれをあまり感じないのも嬉しい。
あと、当て書き作品ではあるけれど「他の人がやったらどうなるんだろう」と思えるところもいい脚本だなぁと個人的には思います。いろんな可能性を感じられる、演じ継がれていく脚本。1,000人規模の劇場でやる商業演劇だけど、200席くらいの劇場でやっても面白そう。
今回は英語監修をエマちゃん、鹿児島弁指導を迫田さんがやっているのも「現場で作っている」感覚があっていいなと思う。
今回は二回の観劇でしたが、もっと観たい!の気持ちもこれで満足!の気持ちも両方あるいい観劇でした。お座席位置も劇場ど真ん中あたりで全体を、サイドだけど最前列!で観劇できてめいいっぱいの熱量を感じることができて本当に楽しかった!またこんな観劇をしたいです!

2024.02.03. 13時
2024.02.12. 13時(大阪千秋楽)