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ミュージカル「スリル・ミー」のプレゼンをするよ

【私と彼。たったふたりの100分間。】


※2013年の韓国公演にて撮影。撮影可でした。

今さらかなぁとも思うのですが、せっかくの再演、せっかくの地方公演!!ということで、今さらながらプレゼン記事をしたためます。ネタバレはありません。スリル・ミーはネタバレを見ないで観劇してほしいですお願いします。
興味が出たらぜひ観に行ってほしい!そんなー心です!!
※この演目は実際に起こった小児誘拐・殺人事件を取り扱っています。

34年前、「私」が「彼」とともに起こした犯罪史上に残る残忍な誘拐殺人事件。動機とされているのはただ一つ、スリルを味わいたかったから。
だが、それが真実のすべてではなかった。やがて明らかになる本当の動機、隠された真実とは――。

【登場人物はたったふたり】

ミュージカルといえば、オペラ座の怪人レ・ミゼラブルエリザベート……なんて大所帯の演目を思い浮かべる方が多いと思います。そこまでの大所帯ではなくても 10人以上はいることがほとんど。
しかしスリル・ミーの出演者はたったふたり。私と彼。以上!
審議官の声だけは録音で流されますが、役者が他の役を演じたりすることもありません。
演奏もアップライトのピアノ一台のみ、という最少単位の演目です。

【限界まで削ぎ落とされた脚本・演出】

あえてジャンルで分けるならサスペンス。実際に起こった小児誘拐・殺人事件を基に犯人のふたりを描いています。
スリル・ミーの基になっている事件は 1924年に起こった「レオポルドとローブ事件」。自分たちの優位性を立証するため、スリルを味わうため、という動機で罪を犯し続けたとされています。
(ちなみに犯罪史に残る凄惨な事件としても有名で、スリル・ミー以外にもこの事件に着想を得た小説や映画が創作されています。特に有名なのはヒッチコック監督の「ロープ」でしょうか)
オリジナル版である英語版ではふたりの名前や地名など固有名詞が出てきているのですが、2007年に初演された韓国版では固有名詞が削ぎ落とされ、ある意味で抽象的に、ある意味でいつの時代にも呼応するようになっています。
2011年初演の日本版はこの韓国版が踏襲されており、セットもぎりぎりまで情報量が減らされたシンプルなもの(この記事の一番上にあるものです)。
日本版は初演からずっと栗山民也氏が演出していますが、演出は基本的に変更されていません。どのペアも基本的な動きはすべて同一です。
しかもこの動きは 2011年(初演)・2012年と2021年公演に出演した新納さんいわく「あれこれ試行錯誤して決まったものではなく、最初から『こっちから出てきてこう動く』と言われていた」ものだそう。
それが10年間ほぼ変わらないままなのですが、観るたびに「完璧だな……」と感じてしまうくらい研ぎ澄まされたものなんです。

【ピアノ一台で演奏される音楽】

いつぞや、ピアニストの清塚信也さんがこんなことを言っていました。
クラシック音楽は一音一音が言葉。音が語っているから歌詞をつける必要性を感じない(だから作詞はしない)(テレビ番組で言っていた記憶なので大意ですが……)
スリル・ミーはミュージカルなのでもちろん歌詞はあるのですが笑、最近また音源を聴き返して清塚くんのこの言葉を思い出したのでした。いや歌詞が乗ってる音源聴いてはいたんですけど……。
一音一音がドラマティックで、耳に残るメロディ。不穏でありながら美しく、緊張感で張り詰めた音楽が本当に素晴らしい。
観劇前に音源聴いておきたいということならオリジナル版がおすすめ。日本語版はやっぱり歌詞を聴いちゃうし、何より今完売してるっぽいです(2023.06.25現在)
英語ですけどできるだけ歌詞は聞かないで……笑。

Thrill Me: Leopold & Loeb Story

Thrill Me: Leopold & Loeb Story

  • アーティスト:Various
  • Original Cast Record
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【ペアごとに違う魅力】

「これは究極の愛の物語です。では、始めましょう」
初演のお稽古はこの言葉で始まったそう。ふたりは同性愛者なのですが、この言葉の通り、初演の田代×新納、松下×柿澤は特に、愛することの業というか……愛したからこその愚かさというか……そういったものを強く感じていました。
そして後年、新ペアに鈍器で殴られたような気分にさせられました。前述した通り、どのペアも演出は同一です。しかしペアごとにまったく魅力が違います。
そのまったく違う芝居に、スリル・ミーの脚本の持つ力に驚いたのを昨日のように思い出せます。
愛しているのは私なのか、彼なのか、はたまたふたりともなのか、そしてその愛はどこへ向かっているのか。それ以外にもペア各々の個性をぜひ劇場で感じてほしいです。

ちなみに。前回公演の2021年公演は3ペアそれぞれにテーマがありました。
田代万里生×新納慎也ペア ▶︎ 究極の愛
成河×福士誠治ペア ▶︎ 資本主義の病
松岡広大×山崎大輝ペア ▶︎ 生の暴走
本当に同じ演目につくテーマか?と思いますが、ついちゃってるんですよねぇ……そして本当にそのままそのペアの印象のベースになっていました。
2012・2014・2018 の各ペアもまったく違う魅力が感じられて、もはや違う演目を観ている錯覚に陥ります。というか同じペアでも上演年が違うと印象は違いました。
Wキャストが当たり前な昨今、「そりゃ役者が違うんだから当たり前だろ」というのもごもっともなんですが、演出がシンプルでこちらに与える影響が少ない分、役者の違いが他の演目よりも頭著に表れている気がします。
要は役者たちが埋められる行間が多いんですよね。だからこそ役者の色が強く出るし、印象が変わるんだと思います。

【で、どのペアを観ればいいの?】

A.好きなキャストが出ている公演でいいと思います!
今回のペアは尾上松也×廣瀬友祐、木村達成×前田公輝、松岡広大×山崎大輝の3ペア。
前述の通りペアごとにまったく魅力が違うので、本音を言えば全ペア観てほしい……ですが、初めて観る演目では難しいですよね。
そして今回のペアに栗山先生がどんな魅力を感じてキャスティングしたのか、どういう方向性で芝居を作っていくのか、始まってみないとわかりません。
なので、「この人好きだな、気になっているから見てみたいな」で決めていいと思います。というか単純に行ける日!でチケット取るのもありです。
どのペアでも「スリル・ミー」という演目が持つ可能性を感じていただけることと思います。

再演自体はまたあると思いますが、次はいつ再演されるか、誰がキャスティングされるかはわかりません。
ぜひこの機会に観劇していただけると嬉しいです!

過去公演の感想はこちら(※ネタバレがあります)

2014年公演CDのプレゼン

2018-2019年公演感想

2021年公演感想