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ミュージカル「スリル・ミー」松岡×山崎ペア(2023)を地方で観たよ

【未完成の危うさ 青くて若いふたり】


名古屋のキャスボ 背景が赤なのがいい

大阪→名古屋→高崎、と地方公演皆勤賞しました。そしたら東京と全然違いすぎて……!?東京の感想まとめといてよかった……と思っちゃった。
そして地方によっても全然違ったので会場ごとに記録しておきます。それぞれ一記事にしてもいいくらいの文字数になったんですけど記事数増やしすぎてもあれなので……。

【2023.10.07. 大阪公演】
本当に同じペアなの……?ってくらい松岡私、強すぎ怖すぎ!
「19歳のガワを被った54歳」の印象は変わっていないんですけど、山崎彼のことをそれとは分からないように導いて調教して自分の好きなように動かしすぎている。山崎彼がやることは全部松岡私の想定内といった感じ。
歴代私全員、優秀すぎて周囲に馴染めない印象はあるんですが松岡私はそれがずば抜けてる。他の私はまだほんのりと社交性があるので。本当に世界に山崎彼しかいない捕食者で、何がなんでも山崎彼を離さない、決意に似たものがあった。
山崎彼は本当にかわいそかわいい……ネグレクトか教育虐待を受けてそうだなと感じた。父親に振り向いてほしくて仕方なくて視界が狭まっていて、いつの間にか世界に松岡私しかいなくなってるのにも気付いていないのかな。
ラストの「レイ」が微笑んでるように見えたのがめちゃくちゃ新鮮だった。あそこだいたい無表情なので。あれは松岡私の幻想だな……って確信してしまった。Life Plus 99 Yearsの「孤独だひとり」も最後の必死の抵抗だったのに敵わなくてかわいそう……。
「幼い子ども」なのはお前だよ!って言いたくなるくらいに幼かったな。成長できてないというより、させてもらえてない、という感じ。それもこれも松岡私と出逢ってしまったから……山崎彼は例えひと時でも幸せだったんだろうか。
……いや、幸せと思い込まされていたとは思うんですよ!でもそれはさ〜グルーミングなんだよ松岡私〜!!
山崎彼のことが心底可愛くて、愚かで、愛おしいと思ってたんだろうなぁ……だってスリル・ミーは私が語る物語だから……っていうのにめちゃくちゃ納得できた公演だった。
ただ、ずーっと「19歳のガワを被った54歳の私」すぎて「19歳の私」がいなかった。全部回想なんですよ。いやそれがスリル・ミーなんだけど、19歳の私に34年間が積み重なっていて、「当時私がどう思っていたか」が見えにくい。伝聞に感じてしまった。
加害性が強く思えたのはこのへんもあるのかなぁ。だって当時は無理矢理とかそういうこと考えてなかったでしょ。34年経った今だからこそ、彼への行いを省みているところもあるのでは……。とちょっと思いました。
事あるごとに下からちょっと覗き込む、これがまたグルーミング感を増長させていた。体格差を活かした芝居でとてもよかったな。
「じゆう じ ゆ う」って全部ひらがなだった。松岡私の自由ってなんなんだろう。あれだけ幼い頃から手を変え品を変え、山崎彼を自分だけのものにしたのに、彼はあっさり死んでしまった。そのときから私の時間は止まっているのに、それでも確実に自分は年齢相応に老いていく。
でもそれに抗っている感じでもなくて……刑務所で教師をしていたのも納得できる歳の重ね方をしている。止まっている私の時間は彼とともに過ごした時間だけなんだな、という感じ。
「いや、こんな話したくありません」、審理官に促されてうっかり話しすぎてしまったって感じがした。わたしはこの台詞は「彼との思い出を誰にも触れさせたくないから話したくない」と認識しているのですが、今までの私はわりと「話そうと思って話し始めたけどやっぱり嫌だ」って印象で、この日の松岡私は「自分の傷痕のことだけを話すつもりだったのにうっかり彼のことを話し始めてしまった」って印象だったな。

繰り返しになりますが、全体的に松岡私がほんっとに強くて加害性があったので、Life Plus 99 Yearsのどんでん返しにはあんまり驚けない造りになっていた。どんでん返しの印象を強めるためにはこの作り方は違うんだろうなぁとは思うんだけど、成河私に言及されてたのはこれか〜とは納得しました。
スリル・ミーという演目のどこに重きを置くかで重要なところも変わってくるけど、ひとつの要素が消えるかなとも思う。
本当に素晴らしくてめちゃくちゃ良かったんですけど、それはわたしがリピーターだからですね。でも素晴らしかった……。
「演劇に正解はない」はそれはそう、でも初見の人とリピーターの人は見方が違うからちょっと難しいなとも思います。ただ、どんでん返しなど何もない2018成福初見の感想で「成河私が何かしらひっくり返すのは分かったけど、どうひっくり返すのかハラハラして面白かった」ってのも見たし……。このへんはもう好みになっちゃいますね。

【2023.10.15. 名古屋】
マイベスト松山ペアの日。今までの「ここは好きだったけどここはなぁ」のいいとこ取りって感じで、そして今まででいちばん筋が通っていたように感じた。
「19歳のガワを被った54歳の松岡私」ではあるんだけど、きっちり「19歳の松岡私」がいたし、54歳のシーンで回想しながら歌ってるシーンは「54歳のガワを被った19歳の松岡私」がいた。
彼を独り占めにしたい、自分だけのものでいてほしい、自分だけを見ていてほしい、からのグルーミング感はあるけれど、それがちゃんと彼に恋しているという動機が見えたんですよね。恋の苦しさだけを感じていた19歳、それが幸せだったと回想する54歳。
山崎彼は相変わらずノンセクで、松岡私とハグすることには安心感を覚えてるし、キスをすること自体は好きというか心地良さはあるんだけどそれ以上の接触が怖いのかな、って印象です。悔しいから言わないけど、距離を置いたって松岡私以上に安心できる人も分かり合える人もいないから戻ってくる。そもそも距離を置いたのも試し行動な気もするけど……。
契約書もたぶん「私が自分から離れていかない証明」だったからめちゃくちゃ大事にしていたと思う。
Afraidは惨めというより哀れだったな。「死にたくない」と叫んだあとに横たわって、そして膝を抱えて小さくなった山崎彼。あの瞬間は確かに小さな子どもだった。うっかり同情しそうになるくらい、小さな小さな子どもだった。「だけど子どもは死んだ」ので同情はしませんけど、でも、この「子ども」は山崎彼でもあったのかなぁとも思った。
というのも。東京公演の頃からフォロワーさんが「山崎彼は性的虐待受けてそう」って仰ってて、わたしは「なるほどな、そう見える人もいるよな」くらいの感覚だったんですけど、この日は「いや絶対そう!」になった。
性的虐待というか、変質者に強姦されたのかなって。それをまた父親に叱責されたし弟には軽蔑されたのでは……って感じたんですよね。だから家庭で浮くし、でも愛されたいし……The Planの「レイプ」ってまだ弟を殺そうとしていたときの歌詞だからめちゃくちゃ違和感があったんですけど、「同じ苦しみを味わわせてやる」って気持ちだったのならそりゃそう言うよなってすとんと納得できたのでした。これ、今まで何組も観てきて初めてだった。
で、松岡私はたぶんそのことは知らなくて、普段と変わらない松岡私の様子に山崎彼は安心して依存するようになったのかなって思いました。私にだけ明らかに心を開いているなと感じたので……。まぁもしかしたら後年には知るところになるとは思うんだけど、松岡私は山崎彼に対する態度を変えることはなかったんじゃないかな。
だからなのかな、松岡私の優秀さにはコンプレックス感じてなさそう、もしかしたら優秀さに気付いてすらいないかも、って思いました。ただ円満家庭とかの環境にはごりごり感じてそうだが……。

この日の松岡私はThe Planでもう全部決めていたように見えたな。本気でふたりで刑務所に入るつもりだったし死刑でもよかった。だってそうしたら山崎彼は自分以外を頼れないし自分に縋るしかなくなる、それを確信していた。ネタばらしはしてもしなくてもよかっただろうし、ほんとはするつもりなかったかも。
松岡私の「罪」は「山崎彼を止めなかったこと」なのかな。止めなかったことというか突き進ませてしまったことかも。彼を手に入れること、そのために行動したことには微塵も後悔を感じてないだろうけど、そのために犯罪をエスカレートさせてしまったことは悔いている、みたいな……。子どもを殺したこと自体は後悔してなさそうだなと感じた。
Keep Your Deal With Meのキスシーンで目を見開いてる松岡私ぞっとしたな。でもあそこの山崎彼は本当に松岡私に縋るしか選択肢がなかったのがしっかりわかってよかったし、それが消極的な選択じゃなくてあくまで「私を信頼しているから」というのがわかってとてもよかった。
Life Plus 99 Yearsで山崎彼が松山私を受け入れたように見えたのが大好きでした。わたしは、それが本当に彼のせいなのかそうでないかは関係なく「こいつがこうなってしまったのは俺のせいだ」って考えて私のことを受け入れる彼のことが好きなんですね。その理想を見せてもらえたのが嬉しい……。
山崎彼は、死んだ後も幻想というかイマジナリーフレンドとして松岡私の隣にずっといたんだろうなって感じた。それがだんだん現れなくなって、審理が始まるころには全然会えなくなってたのかな。
公園で再会した瞬間は54歳だった私が「さぁいいかい」って歌っているうちに19歳に戻っていったのが最高に好きでした……「スリル・ミー!」って歌い終わった後の暗転がもう切なくてたまらんくてうっかり泣いちゃったわよ!ここで切なくて胸が苦しくなるスリル・ミー(演目のほう)が大好きなんや〜!!

いくつかトラブルを目撃してしまった笑。
タイプライターの紙送り(って言うのかな?)が動かなくて松岡私めっちゃ焦ってて可愛かった笑。動かないのに「容疑者Aは〜」って歌い続ける山崎彼と、どうにか動かないか紙送りを弄りつつタイピングする松岡私……手が爆速で動いてた。そしてRansom Noteで動じない山崎彼よ……笑。
最初のバードウォッチングで眼鏡を忘れていたかな?それから盗みのあと下手側の柱に激突した勢いで胸ポケットから眼鏡が飛び出てた、のをきっちりしまい直す松岡私めちゃくちゃよかった。

【2023.10.22. 高崎/大千穐楽
最初から最後までずっときりきり締め上げるような緊張感が続いていて、脆くて繊細なふたりがお互いを傷付け合いながら修復し合いながら、なんとか立ち続けている感覚でした。まさに「お前がいなきゃ駄目なんだ」。
松岡私はその時々、その場その場で「今の最善は」を考えていそうだったな。眼鏡を落としたのもその場で考えてわざと落としていたと思う。だからずっと緊張していた。
山崎彼も行き当たりばったりで、パニックから松岡私を突き放したりもしたけど、でもその場その場の結論で「やっぱりレイがいないと」になっていた。
Preludeで松岡私の傷痕ぐずぐずやな……って感じた。塞がってもいない、膿が出ていて触れずとも痛い傷痕。
「いや、こんな話もうしたくありません!」が「彼が死んだという前提で話をしたくありません」って言っているようにも聞こえてぞっとした。松岡私の中で山崎彼は生きている、山崎彼が望もうと望むまいと。名古屋では望んでそばにいてくれたと思ったので、松岡私の独りよがり感が強かったのかな。
Thrill Meでは今まで「約束だよね?」って歌ってた私が多かったと記憶しているけど、松岡私は「約束だよ、ねぇ!」って歌ってるのが珍しくて好き。好きだけど、これはごりごりに性行為を強要しているんだよな……。
加害性強めだったし山崎彼を頭からバリバリと食べてしまいそうな勢いがあったけど「好き」の気持ちを抑えられないのかな?と感じた。愛されて育ってきたはずなのに愛し方がわからないというか……ある種の「怪物」だった。これは決して超人ではなく「怪物」。
Thrill Meで「いい加減な気持ちなら嫌だ!」を聞いた瞬間の山崎彼のすっと感情が消えてしまったような表情ったら!松岡私が「今はだめだ」の拒否を聞いてくれない絶望、受け入れたいのに受け入れたくない絶望、無理矢理欲望を押し付けられる絶望がすべてないまぜになっているようだった。
信頼も信用もしているのに、自分のことを大事に思っているはずなのに自分の都合だけを押し付けられる落胆。それなのに拒否しきれない自分にもまた絶望してしまっているのではないかな。
どの公演も「ふたりでひとつ」な松山ペアでしたが、この日は特にふたりの間に何ものも介在してはいけなかったんだなと思いました。誰がいてもだめ、雑念や雑音もだめ、ただふたりだけの世界で閉じていなければいけなかった。けれどそうはできなかったからふたりの世界が壊れてしまったんだろうな。でもそれが世界に存在するということで……ふたりだけで冷蔵庫に入る(概念)松山ペア、大好き。

【複数公演観劇して】
自分の歌手活動があったり歌唱力おばけたちとお仕事してた大輝くんがぐんぐん歌が上手くなってるのはわかるんだけど、前回のスリル直後のニュージーズしか歌仕事がなかった広大くんがあれだけしっかり歌えるようになってるのめちゃくちゃ努力したんだろうなぁって目頭が熱くなりました。
東京公演の感想でも書いたけれど、凸凹がぴったりハマってひとつの歌声に聴こえるところが好きなので、同程度の歌唱力がないとそれが実現できないから……しっかり合わせてきてくれてすごい。
ただ、あれだけびたびたに歌えるのに感情が昂ると台詞が引っくり返るのどうして!?だけど笑。特に広大くん!
勢いがあっていいといえばいいけれども、個人的には高い打点の声でも地声でびったりいってほしい。あとふたりともテンションキリキリになると滑舌が甘くなっちゃうんよね。それも勢いがあっていい面もあるけれどふたりならできると思うので、次のお仕事でもまた楽しみにしています。

東京→大阪を観たときにあまりにも違いすぎて、別のペア観てる?って思ったくらい。さらに名古屋を観るとまたずいぶん違うものになっていて、ちょっと軸がブレてない?と思った。
演劇は、特にスリル・ミーは観る日によって受け取るものが違うのはわかっていますが、あまりにも違いすぎて疑問に思ってしまった。もちろんその日その日だけを見たら「素晴らしい公演だった!」なんですけど。
表現したい軸があって違うアプローチをしているというブレじゃなくて、そもそも表現したい軸を悩んでいそうなブレということです……。
例えば「ふたりは幸せになっていいのか?幸せを表現していいのか?」っていう悩みはお稽古場に置いてきて!って感じですね。いいって決めたんならそう表現してほしいし、あかんって決めたんならそう表現してほしい。
ただ、名古屋→高崎は「こういうことがやりたいんだな」が一貫していたからか、なんというかやっと今年の完成形が朧げに見えた気がしました。それでも未完成に見える青さが松山で、そういうところが好き!あんまり比べるのもあれなんですけど、2012松柿の未完成さを思い出してぎゅうっとします。
……ということもあり、次は5年くらい寝かせてから観たい!!ふたりが言っていた「30代になってからかな」で観たいよ〜!!ふたりとも再演自体はやる気満々みたいだし!ペアシャッフルの可能性ももちろん念頭にはあるけど(すべてがトラウマの松柿の民)、本人たちがいちばん松山強火だから話が来ても受けるのか……?とはちょっと思います笑。

2023.10.07. 16時
2023.10.15. 12時
2023.10.22. 12時30分

東京公演感想
2021年公演感想