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舞台「ネバー・ザ・シナー」を観たよ

【僕たちは超人じゃない】

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「レオポルドとローブ事件」と言えば日本の多くの演劇ファンにとっては「スリル・ミー」かと思いますが、同じ事件を元にしたこの演目がついに日本で上演されるとのことで観てきました。
「スリル・ミー」はふたりの関係性に焦点を当てた作品だなと思いますが、今作は事件そのものと逮捕後の世論に焦点を当てた作品でした。
そして「スリル・ミー」は事件をあくまで下敷きにフィクションのエンターテインメントに昇華させた作品だな、と。
(亡くなった人がいる、しかも凄惨な殺害をされた実際の事件をエンタメに昇華することの是非はありますが、今回は一旦置いておきます)

「かわいいネイサン」と「クールなリチャード」から始まって、最後は「冷静なネイサン」と「幼いリチャード」で終わったの面白かった。
劇中に「彼らは知能はとても発達していますが感情は発達していません。10歳の子どもにも満たないのです」って台詞があって、それが最後の「幼いリチャード」に繋がったのかな。
幼いころからテディベアに「それでね、テディ」って話しかけるリチャード、というのは史実なのか創作なのか分からないけど、幼さの強調に一役買っていて、いいエピソードだったと思う。
ふたりとも最初は10歳の子どもにも満たない感情だったけど、ネイサンはダロウに出会って少し成長したのかなとは感じた。
法廷で笑ったり馬鹿にしたような態度に対してダロウが注意して、リチャードは「なんで僕だけ我慢しなくちゃならない?」ってこれまた半笑いで言うけど、ネイサンは神妙な面持ちで「ダロウさんの言う通りだ」ってリチャードに語りかける。
クライマックス、ネイサンに縋り付いて大泣きするリチャード、その背中を優しく宥めるネイサン、という図がとても痛々しいほどだった。
スリル・ミーは私(ネイサン)が「僕こそが超人だ」って確信する話だったけれど、NtSは「僕たちは超人じゃない」って確信する話だったのも興味深い。
対比させすぎるのもどうかなとは思うけど、面白いなと思ったのはスリル・ミーは彼(リチャード)が父親からの愛や承認に飢えていて、NtSはリチャードのほうが特にだけどふたりとも母親からの愛に飢えているのかなというところ。
母親が面会に来ないことにいらついているように見えるのに加え、「どっちが殴って殺したにしろ同じ罪の重さなんだから、ベイブが殺したことにしといてよ、ママが悲しむもん」ってどんな理屈だよリチャード……ネイサンの「僕にも家族がいるんだ」って返答は至極当たり前すぎて……リチャードよ……。
ネイサンは「絞首刑になったら身体をどうしてほしい?」って聞かれて「ママの隣に埋めてもらおうかな」って答えているの、ママともっと一緒にいたかったんだろうなぁって感じた。それこそ感情が10歳の子どもにも満ちていない。

それから印象的だったのはネイサンが「彼が僕の崇拝に値しないことは分かっていた」って言ったところ。崇拝に値しないことは分かっているけど離れられなかったのはもう「恋は盲目」で、さらに依存していたんだろうなぁと思う。事あるごとにアイコンタクトをして微笑みあって、お互いしか見えていなかったんだろうな。
そしてふたりともアモラルに見えたのとてもよかったな。
ただそこに殺人の「事実」があるだけ、それ以上でもそれ以下でもないという感じ。「だって僕たちの理論の証明がしたかったんだもん」というだけ。
いやアモラルというよりやっぱり子どもなのか……。

新聞記事の読み上げシーン、あれ当時の引用なのかな?
「あなたはディック・ローブとデートしたいですか?」とかアイドルっぽい報道されてるのグロいな。いくらハンサムでスマートでも自分の理論で子どもを殺した殺人犯なのに。
その小道具の新聞、お写真が実際のネイサンとリチャードだったり、捜査資料も掲載されてたりしたのでもしかして実際の当時の新聞だったりするのかな。ボビーの解剖調書とかもチラッとしか見えなかったけどだいぶ作り込んであったように思う。

パンフ読んでたら辰巳くんが演出したシーンがあるみたいだけどどこのシーンなんだろうなぁ。君塚さんが敢えてそのシーンを任せた理由も気になる。
好きだったのは中盤のダンスシーン。にこやかなふたりの練習風景に照明が美しくて、あぁこんな風にずっと続いたらいいのに、って思った。けど、そのシーンの最後にあった「ほら、僕らできただろ?」って台詞が「僕ら(きちんと殺人を)できただろ?」に聞こえて背筋が凍えた。
あと君塚さんが「ネイサンはゲイ」って断言していて、きちんとそれをベースにふたりの関係性を構築していったんだなと得心した。
最初の登場シーン、ふたりの目が合った瞬間から、あっこのふたり性的関係結んでますわって分かったんだよね。絡む視線に触れる手。そして抱き締める腕。
なのに一度も「恋人」って言ってくれないしマウストゥマウスのキスもしなかったの不自然すぎた……頬へのキスはあったしいちゃいちゃはしてるけど……。
ラストが出逢いのシーンで終わるのとてもとてもとても好きで、ネイサンが一目惚れしたのもよく分かった。しかしふたりきりになりたいからって初対面で「車でポーカーしよう」って誘い方がすごいよネイサン……しかも自分から「Babeって呼んで♡」はなかなかの強心臓。さすがネイサン。

「スリル・ミー」好きだしとりあえず観とくか〜って観に行ったけど演目としてとても面白かったです。また観たい。再演してほしいな。

2021.09.18. 12時30分 / 17時