世界が終わる日が休日ならいいな

好きなものを好きなときに好きなだけ

ミュージカル「next to normal」を観たよ

【普通の隣でいい いつか受け入れて前に進める日】


再演が決まる前からさんざっぱら言ってるんですけど、初演を観劇しなかったことを人生でトップ5に入るレベルで後悔している。
そしていつか必ず再演があると信じて公式サイトのストーリーすらまともに読まないレベルでネタバレを避け続けて9年、ついに再演が決まって本当に泣きました。よく「泣いた」って言ってるけど涙腺が緩いので本当に泣いてます。
当時ガラッガラで販促施作もりもりでチケット売っていたことを知っているので、これだけチケ難になるとは誰が想像できようか……我ながら先行やFC手配かけないでよくチケット取れたなと思います。
そして本当にネタバレを目にしないで観劇できてよかったぁ……!と思えたので、もしいつか観劇したいという方は読まないでほしい……。

事前に知っていた情報は「双極性障害を患っているダイアナとその家族の話」ということだけ(我ながらよくこれ以上の情報を目にしなかったな……)。なのでゲイブがダイアナの幻想と分かった瞬間にはこの瞬間のためにネタバレを避けてきてよかった……!と心底思いました。
とは言え、最初からなんとなく違和感があった。ダンとナタリーはゲイブのことをすり抜ける。決定的に「これはおかしい」と思ったのはダイアナが薬をトイレに流したところ。16年間の闘病生活を知っているならそんなことはやめろと諭すのではないか?と思ったところでゲイブはナタリーが産まれる前に死んだことがわかって背筋が冷えた。

この物語は半径5メートルの家族の物語だなと。 家を模したセットが余計にその印象を強めていたかも。観劇中にまだ救いだよなぁと感じていたのは家族三人がお互いを愛していたこと。離婚するでもなく不倫をするわけでもないダン、家出したり悪い友達とつるむわけでもないナタリー。まぁちょっとトリップしちゃうけど……。
陳腐な表現だけれど、愛していたからこそ支えているけれど疲れもしたんだろうなと思う。 あとゲイブが成長しているということは、ダイアナの心は止まっていても時間は進んでいることもこの家族にとっては救いだったのかなと思った。きちんと家事をしようと(きちんと生活しようと)もしているし。でもダイアナはゲイブの死を受け入れられない。それが家族を歪ませている。

ナタリーは自分のことを「見てもらえない」と思いながらもいい子に育っているなぁと思う。友達は少なそうだけども……。
「君って複雑だね」 「ママに会えば分かるわ」 で、つらくてしんどいはずなのにこう返せるって強い子だなとも思う。ママが発作を起こしたらダンスパーティを置いて病院に連れて行ったりするところも強いよなぁ。
「スーパーボーイとインビジブルガール」がゲイブとナタリーのデュエットなのも胸が苦しくなった。見えなくてもゲイブはナタリーの中に存在したんだよな。存在させられたと言うべきかもしれない。見えないけれど確かに存在している。
ヘンリーもいい子だよな。 ナタリーの家族に会って離れても、トリップしたナタリーに付き合い切れなくて離れてもおかしくないのに。 ヘンリーのバックグラウンドは描かれないけれど、あたたかい人だなと思う。最後にはダイアナがナタリーの赤いリュックを下ろしてあげて、青いドレスとスーツでナタリーとヘンリーが抱き締めあう。そこで「クレイジーはパーフェクト 失敗こそパーフェクト なれるよパーフェクト」と歌うところが好き。
ヘンリーはグッドマン家に入る異物であり、その異物こそがグッドマン家を動かしていく。ドクター・マッデンはあくまで家の外にいて、グッドマン家と関わるのは基本的にダイアナだけ。ダンとも少しだけ関わるけど。
異物であるヘンリーはナタリーの救済だった。ナタリーを認めて見つめてくれる人。ナタリーがヘンリーに「あなたはわたしのお気に入りの問題なの」と言うのもいいな。問題だらけのナタリーにお気に入りの問題ができたのがいい。

ダンは優しいしダイアナのことを心から愛していて心配もしているけれど、諦めとか疲れとかがあるんだろうなと感じた。ダイアナが記憶を失くしてから事実とは違うことを教えているのは、ダンこそがnormal でありたいと望み、abnormal なダイアナを受け入れられてなかったのかも。だから一歩踏み出したダイアナとは対照的に、最後にはダンのシャツが赤くなる。ダンの中にだって、見えないけれどゲイブは確かに存在している。
ただ、もしかしたらダンは今までダイアナのことで手いっぱいでゲイブのことに向き合ってきちんと傷付くことが出来なかったのかなぁとも思った。 ナタリーの子育てもあるし。ゲイブの名前を終盤になるまで呼べなかったのはそれなのかも。 きちんと傷付かないと回復もできないと思っていんですけど、ゲイブが見えるようになって、これからゲイブと向き合ってきちんと傷付けるのかもしれないな。それはきっとダンの第一歩なのだと思う。

キャスト表で観客はゲイブの名前を知っているけれど、劇中では最後の最後まで名前が出てこない。 そしてダンが呼んだ「ゲイブ。……ガブリエル」。
ガブリエルといえば最初に思い出すのは大天使だよなぁと思ってちょっと調べてみたら、ユダヤ教では「預言者ダニエルの幻の中に現れる天使」なんですね。キリスト教では受胎告知に描かれているように神様の言葉を広める役割を担っていることが多いとか。
まぁ一般的な名前でもあるし、ここに掛けているかはわからないけれど、なんだか奇妙な巡り合わせだなと感じたのでした。

大切な人の突然の死を受け入れるのは難しい。ダイアナはそれを受け入れられなくて妄想の息子を作り上げてしまう。ダンは受け入れる前に傷付けなくて16年が経ってしまった。
「亡くなった人は心の中で生き続ける。 遺された人はその死を受け入れて生きていかなければいけない」
この半年ほど、そんなテーマの作品を立て続けに観た。偶然だけれど、わたしが今観るタイミングなんだろうな。
人の死だけではなく、こうやって演劇を観て自分の心に整理を付けられることはあると思う。N2Nだと家族の問題そのものだとか、双極性障害やお薬で自分の気持ちをコントロールしている人への向き合いかただとか。そうやって、少しでもよく生きるためのヒントを演劇は教えてくれたりもする。
初演を観られなかったことはやっぱり後悔し続けると思うけれど、観てよかったし再演してくれてよかったです。早くまた再演してくれ~!!

2022.04.22. 13時(チームN
2022.04.23. 12時(チームA)

大切な人の死を受け入れる話

この記事↓には書いてないけど今年のコナンも同じテーマがあった